辺縁系(へんえんけい)について

まずは、復習です。ヒトの大脳皮質では、新皮質が発達し、皮質の90%を占めることになりました。新皮質が外側をおおってしまったため、残りの皮質である古皮質と原皮質は、大脳半球の下とか奥のほうに追いやられてしまいました。

大脳の新皮質が大きくなったため、鳥類以下の動物での運動中枢だった神経細胞の塊(かたまり)も、大脳の底に追いやられました。これが、大脳基底核ですね。前に話したように、錐体路という、哺乳類に特有の運動中枢が出現したため、残った基底核は、下位中枢になりました。大脳基底核は、なめらかかつしなやかな運動ができるように、錐体路の中枢を補佐しています。

さて、古皮質には、なにがあるでしょう。においに関する嗅脳(きゅうのう)です。

もうひとつ、辺縁系というものがあります。脳梁(のうりょう)??にそって、存在する古い皮質の集まりです。

ここで、古い皮質と表現したのは、古皮質と原皮質が入り混じっているためと思います。細胞のむずかしいことは、わかりません。

まず、嗅脳について、調べます。

下の図と説明文は、高津/溝の口のカイロプラクティック 高津整体院(http://www.takatsu-chiro.com/yougoshu/cranial-n-1.htm )のページから、引用したものです。

鼻(はな)の穴から入って、上の部分に、においをかぎ分ける嗅細胞があります。これらの細胞から出ている軸索(じくさく)の束が嗅神経になります。軸索については、のちほど、説明します。

においが分かるって、どうゆうこと?

息を吸ったとき、吸気に混じっているにおい物質の分子が、嗅上皮を覆う粘液に溶け込みます。
においの分子が嗅小毛を刺激すると、嗅細胞が興奮し電気的刺激(しげき)が発生します。
電気的刺激は嗅神経を伝わり、嗅球、嗅索を通り大脳皮質の嗅覚野に達し、においを知覚します。

においを知覚できる物質は、揮発性の微粒子で粘液に溶け込み、嗅小毛を刺激することができるものでなければいけません。

においの順応 (じゅんのう)

嗅覚は、閾値(いきち)が低く敏感な感覚ですが、においに対する順応(感受性の低下)は急速に起こります。
同じにおいを嗅いでいると、そのにおいが分からなくなります。
強烈なにおいにさらされた場合、約1分ほどで感受性がなくなります。
ただし、他のにおいは普通に分かり、逆に感受性が高まる場合もあります。

鼻腔は、上中下と三層になっていて、嗅細胞のある嗅上皮は、鼻腔の上部にあります。
通常、呼気と吸気は鼻腔の中部と下部を通り、上部にはほとんど外気が入らず、におい物質は拡散によって達します。
においが分からなくなったとき、強くにおいを嗅(か)ぐことで鼻腔上部に外気が入ると、嗅細胞が刺激され、またにおいが分かるようになります。

 

 

鼻の中の嗅細胞が臭いの元となる化学物質を捉え、刺激を大脳辺縁系の1部である嗅球へ伝達し、さらに大脳の嗅覚野へ伝え、そこで認識されます。


人の嗅細胞は2千万〜5千万個存在します。それぞれ反応できる化学物質とは1対1の関係にあり、約400種に分類されています。


臭いのバリエーションはこれらの刺激の組み合わせによって生み出されています。


また、嗅細胞の数の分布状況などは個人差があるので、特定の臭いに敏感な人や鈍感な人もいます。


嗅覚の特長としては、視覚や聴覚などの感覚に比べて脳へ伝わるルートが特種で有る事が挙げられます。


嗅覚以外の感覚は間脳の視床を経由して脳の中のそれぞれの場所へと伝達されて処理されるのですが、嗅覚だけは視床を経由せずにダイレクトに大脳皮質の前頭葉(眼窩前頭皮質)の嗅覚野と側頭葉の辺縁系に伝達されます。 何故、嗅覚だけが特別扱いになっているのか、正確な理由は解っていません。

嗅覚の受容体というものは、ないようです。つまり、ほかの感覚神経には、それぞれの感覚器官に受容体というものがあり、そこから、感覚神経が中枢に向かっています。

嗅覚神経は、嗅脳という脳の一部が末梢にのびたもののようで、視床を通る必要がないということらしいです。

 

 

さて、脳梁(のうりょう)とは何でしょうか。

 

 

左右の大脳半球をつなぐ交連線維の太い束で,左右の大脳皮質の間で情報をやり取りする経路となっています。ヒトの場合、約2億〜3億5000万の神経線維を含みます。

例えば脳梁前部(脳梁膝)は左右の前頭前野を、中部は左右の運動領域を、後部は左右の視覚野を結ぶ線維からなっています。左右の半球で連絡の多いところと少ないところがあり、たとえば手足の知覚領域は半球間の連絡がまったくありません。

MRI画像から白質などの神経線維束の走行様式を推定する方法をtractographyと 呼びますが、この方法で、この図は、脳梁を介して右と左の大脳半球間で、神経線維が交通している様子を表しています。

 

 

 

 

 

 

 

 

大脳辺縁系についてです。

辺縁系は、脳梁に沿って、かつ大脳の奥深くにある尾状核被殻からなる大脳基底核を取り巻くように存在する古い皮質の総称です。

主な役割は、

記憶(短期記憶と長期記憶)と情動(やる気、怒り、喜び、悲しみなどの快不快)に関することです。

辺縁系を構成(こうせい)するものは、

眼窩回、中隔、帯状回、海馬傍回、内嗅皮質、海馬体、扁桃体、乳頭体です。

下の図で、帯状回、海馬傍回が分かります。カラー図解 人体の正常構造と機能 VII神経系(1)から引用

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さらに下の図で、海馬、中隔核、扁桃体、乳頭体が分かります。

脳弓というものは、海馬からの刺激を中隔核に伝える連絡路です。

カラー図解 人体の正常構造と機能 VII神経系(1)から引用

大変です。ややこしいです。とても、ついていけないですね。

そこで、アニメを作りました。これでも、わかりにくいので、その下にビデオを作りました。見てください。

 

ビデオの中で、中脳水道と説明した部分がありますが、間違いです。側脳室です。どうも。

 

 

記憶については、短期と長期があります。                     

短期記憶  今日食べたものを覚えているとかアルツハイマーの診断に使う記         憶情報

                         

短期記憶の中で、本人が大事と思った情報は、連合野へ移動し、長期記憶になります。  

10年前のあの頃、こんな感覚で歩いたなー

空間感覚の情報は、頭頂連合野へ

こんな景色や音だったなあー

色とか形の情報は、 側頭連合野へ

               

             

  古い記憶の情報を呼び起こして、前頭連合野でイメージ化することになります。

 

記憶するには、まず、外からの情報が必要でしょう。視覚、聴覚、体性感覚(嗅覚は除いて)、味覚と痛覚の

情報が、すべて視床を経由して後頭葉、側頭葉などに集まります。

次に、これらの感覚情報の一部は、海馬に集まります。

下のアニメで、青い矢印は、新皮質と感覚連合野がある大脳皮質から、信号が辺縁系にはいることを表しています。

赤い線は、ペーペズ(Papez)の回路といって、海馬ー脳弓ー乳頭体ー視床前核ー帯状回ー帯状束ー海馬傍回ー海馬をぐるぐる回る神経ネットワークを表しています。

また、種々の連合野や辺縁皮質からーーーーー>海馬傍回に神経が伸び、

海馬傍回から−−−−>ほとんど全ての大脳皮質に神経がはりめぐっています。

  

Papez回路では、ぐるぐると情報が回っていますが、

各個人の大脳皮質が必要と判断したとき、必要な記憶は大脳皮質連合野に格納されます。

そうでなければ、また、海馬に戻り繰り返します。

そのうち、格納する必要がない場合、情報は消えていくようです。

次に、扁桃体についてです。

 

   情動と本能行動の統合中枢

情動とは、1)あるものを見たとき、得になるか、損かを直感的に見極めます。

2)その評価にもとずいて、自律神経系や内分泌系が反応し、体の筋肉がこわばったり、心拍数や血圧が上昇します。3)これらを情動表出というそうです。同時に、恐れ、怒りなどの感情がでます。

つまり、この主観的な感情と情動表出を合わせて、情動というそうです。

主観的な感情の体験には、大脳皮質の前頭眼窩野、帯状皮質という場所が関係します。

手術で、帯状皮質前野を除去した患者は、痛い場所はわかり、血圧とか心拍数は上がりますが、痛みに伴う強い不快感がありません。

実験で、前頭眼窩野を破壊した動物は、攻撃性が減り、情動反応がなくなります。

ヒトの扁桃体を電気刺激すると、恐れや怒りがでます。また、両側の扁桃体が損傷した患者では、他人の顔は分かりますが、驚きや恐れの表現ができません。扁桃体を含む両側側頭葉を破壊された動物は、元来、恐れていたものに反応せず、敵に平気に近ずくそうです。

情動表出には、視床下部がかかわっています。視床下部は、自立神経系と内分泌系の中枢です。

扁桃体から視床下部に信号が送られて、心拍数、血圧、呼吸、消化運動、発汗、瞳孔などに変化がでます。

下のアニメで、赤い線は、扁桃体から、視床下部や視床背内側核、脳幹網様体や脳神経核へ出力し、情動表出を引き起こします。

青い線は、大脳皮質の感覚連合野や嗅球などから、すべての種類の感覚入力が入っています

また、扁桃体は、海馬や前頭眼窩野、帯状皮質と相互に連絡しています。。

 

 

下のアニメで、扁桃体には、大脳皮質から種々の感覚入力が入ります。

海馬からの記憶情報と照らし合わせて、情動にかかわる感覚情報かを評価するようです。

扁桃体からは、視床下部、脳幹網様体、脳神経核へ情報が送られます。

一方、大脳皮質への出力は、主観的な感情が出てきます。

 

また、辺縁系は側坐核といわれる構造と相互に結合しているようです。

側坐核は、大脳の快楽中枢として知られている部位で、性的刺激、そしてある種の違法薬物によって引き起こされる「ハイ」な感覚と関連しています。

金属電極を側座核に挿入したラットは、この部位への電気刺激を引き起こすレバーを押し続け、食物や水の摂取をせずに最終的には疲労によって死んでしまうことが知られています。側坐核については、またの機会に。

辺縁系の左右差について

海馬については、海馬の神経回路は左右異なるようです。これによって、記憶を取得する方法も、影響されるようです。(伊藤 功 著:海馬の分子レベルでの左右差 から)  

ページ作製後の感想

辺縁系を解剖学的に理解することは、大変難しいと感じました。

また、記憶と情動ということも、なかなか理解しにくく、神経の結びつきも分かりずらいものでした。

記憶については、さらに、特集が必要と感じています。本能と情動を統合する扁桃体も、難しいです。

主体性という意思が、どこにあるのか。前頭連合野にあるそうですが、わかりにくいです。記憶はシナプスで蓄えられるのか。

わかりません。さらに、勉強を続けます。